去る2023年7月30日、世田谷区三宿のカプセルギャラリーにてFRAGILE BOOKSが発行した『絵本・方眼子句集』の「断冊式」を執り行いました。当日は、著者の山口信博さんをはじめ、カルトン(ブックケース)を拵えてくれたRivotorto piecesのおふたり、薄葉紙の包装を考案してくれた折形デザイン研究所の山口美登利さんと西村優子さん、印刷のアトリエグレイ平井彰さん、それから裏方として支えてくれた横川知宏さん、FRAGILE BOOKSからも発行人の櫛田理が合流し、制作チームのほぼ全員が集合しました。断冊式がはじまる前に、望月通陽さんから前日に届いた出来たてほやほやの49冊をおおいそぎで記録撮影。カメラマンは長年山口信博さんとタッグを組んでいる大友洋祐さん。望月さん描きおろしの表紙絵は、オーナー(購入者)の活動と句の内容を汲みとって、一冊一冊絶妙に異なる顔立ち。裏表紙には、表札のようにオーナーのお名前が描かれていて、両面ふかふかの紙の上で、銀色の線が躍っています。撮影を終えたらすぐに、奥付をカルトンの内側に貼り込む工程へ。一枚ずつ、ていねいに、Rivotorto Piecesのおふたりの手で。ふだんはデザイナーで、染織家で、イラストレーターで、と幅広く活動をしているふたりに、この日は職人になってもらいました。島田耕希さんと小島沙織さんのご夫婦は、ミリ単位の手しごとがよく似合う。そうこうしている間に、山口信博さんがいそいそハサミを取り出し、『絵本・方眼紙句集』の前に。広辞苑と見間ちがうほどぶ厚い本は、ブックアーティストの太田泰友さんから数日前に届いたばかり。解体するために印刷製本するという前代未聞の出版のために、太田さんや印刷所の平井さんと入念な打ち合わせを重ねて、なんとかこの日を迎えることができたというもの。だから、どうか失敗しないようにと祈るような気持ちで、山口さんとハサミの動向を見守ります。山口さんは山口さんで、このプロジェクトの構想が決まったとたんに、まっさきに医療用の「抜糸鋏」を入手していたほど、誰よりもこの日の解体ショーを待ち焦がれていました。間違えたらオジャンなので、ハサミを入れる目印として「紙こより」を8ページごとに挟んでいきます。いよいよ、準備万端。 午後3時になりました。「断冊式」と書かれた半紙をガラス戸に張り出し、断冊式のはじまりはじまり。購入してくれた49人のオーナーは、俳人やギャラリーオーナー、茶人や建築家など、多士済々。一人ずつおなまえを呼んで、2時間ほどかけて、解かれた本を直接手渡していくことができました。山口さんも切る場所を間違わず、よかったよかった。終了間際には、望月通陽さんも静岡から駆けつけて、とどこおりなく終演。作り手と読み手が顔を合わせ、出来立てほやほやの本を手渡しで発行することができるなんて、こんなしあわせな出版のかたちがあるでしょうか。オーナーのみなさんとは、一冊を分け持ったご縁なので、またなにかの折にぜひ再会したいものです。---49人で分け持つ本FRAGILE BOOKS EDITION静岡の望月家に、世界に一冊だけの手稿本がだいじに保管されています。望月通陽の奥さまの克都葉さんがどうしても手離したくなくて買い戻したというお墨付きの本です。それは山口信博さんが2018年に私家版として発行した句集『かなかなの七七四十九日かな』の全ページにわたって望月さんが句を読み解き、絵を描き入れたもので、かいわいでは、望月通陽の最高傑作、とも称されている手描きのハンドメイド絵本です。今回、山口さんからのご依頼で、その写しをつくり『絵本・方眼子句集』としてFRAGILE BOOKSから限定出版することになりました。ただし、本として誂えるのは一冊だけ。408ページからなる全体を49の部分に分割していわば、切断された三十六歌仙絵巻のように、同好の士が分け持つ本として出版します。ここに、8ページずつに解かれた本を共同保有する49人のオーナーを募集します。なお、発行日の7月30日には、山口さんの個展「相即の詩学」の会場で仕上げた本を解体する「断冊式」をおこないます。山口信博がハサミで本を解き、山口美登利が断簡を包み、望月通陽が表紙のどこかにイラストを描き入れて、ご列席のオーナーに、本をお渡しします。それで仕舞いです。なんだか、始末のよい出版になりそうです。発行人 櫛田 理ーーーFRAGILE BOOKSは、取り扱い注意の作品に触れられるオープンデイや、作家によるワークショップを不定期で開催します。DMハガキ、オンライストア、Instagramでご案内しますので、ご興味のある方は、こちらからメンバー登録をお願いします。 主催:FRAGILE BOOKS