初日:2024年10月26日 / 2日目:10月28日
ふだんはアポイントメント制のFRAGILE BOOKSのアトリエを開放し、陶芸家の森田春菜さんを囲む2日間のオープンデイ。庭の敷石にゆれる木陰にちいさな秋の気配を感じながら、参加者のみなさんをお迎えしました。
駆けつけてくれたのは、アートコレクターの星幸恵さん、ジュエリーデザイナーの坂本憲明さん、骨董商の須賀深雪さん他、アーティストや編集者など、職業も年齢もさまざま。どこまでも自然体な森田さんの話に耳を傾けながら作品に触れる心地よいひとときを過ごしました。
今回フラジャイル博覧会で特集したのは、銀彩の積層で作られた森田春菜さんの磁器作品。FRAGILE BOOKSでは、焼きたてのおいしそうな本に見立てて「Baked Book」と名づけました。
参加した人の中には、本多康司さんの写真と山口信博デザインによる”おもわせぶり”なハガキDMをご覧になって、どうしても実物を見たかったという人も。「紙だと思っていた」、「想像よりもずっしり重い」、「層を数えたら100枚くらいあった」などみなさん驚きを隠せない様子で、森田さんからくわしい制作工程やここに至るまでのストーリーを伺いながら、オンラインでは伝えきれない魅力を、直に感じていただきました。
今回のように膝を突き合わせて、自身の作品について交わし合うことは森田さんにとっても初めてのことだったそうです。緊張した反面、導き出されるようにして、おのずから繰り出す言葉の数々に自ら驚いたりしながら「濃密で貴重な時間でした」とふりかえりの言葉をいただきました。「間が空くのがこわい」と言いながら、ふと問いかけると、少し間をとりながらていねいに言葉を紡いでいく森田さんの語り方が印象的でした。
作品をつくるときは「主張が強すぎて誰かを疲れさせてしまわないように、気をつけている」のだそうで、「もともとそこにあったかのような自然物に近い存在を目指している」のだとか。たしか、小林秀雄も「物は人を疲れさせてはいけない」と、似たようなことを民藝について語っていました。
Baked Bookは、見る者に何かを求めたりしないという点では、謎かけのようなアート作品でもないし、器のような実用的道具でもない。実際、工芸とアートの中間的な態度を選んできた彼女のあり方は、陶芸作家として長らく理解してもらえなかったのだそうです。「ほんとうは、できた作品に名前をつけることもしたくない」とも。その場にいる人とおなじ空気を呼吸して、生きるもの全てと同じように時間をかけて姿を変化(銀の硫化)させていく。それでいいではないか、というのだ。しかも、存在感として自然物のようであってほしい、と願いながら「でも、わたしからすると、自然のままだと存在が強すぎる」と、自問自答をつづける森田さん。
SNSなど指先でコミュニケーションが済んでしまう時代に、わたしたちの安らぎや健やかさは、いったいどこにあるのか。それはきっと、壊れものをそっと包みこむ手のひらの中に、目を凝らしてディテールをのぞきこむ瞳のなかに、名状しがたいものを理解したいと願うこころに、あるはずである。森田さんの作品には、じぶんの裡に眠っている微細な感覚がじょじょに回復していくような不思議な調律力があるようです。
フラジャイル博覧会
森田春菜「Baked Book」展
期間:2024.10.1 - 10.31
会場:オンライン展示室
FRAGILE BOOKSは、取り扱いに注意の必要な作品を、直に触れることができるオープンデイを不定期で開催します。DMハガキ、オンライストア、Instagramでご案内しますので、ご興味のある方は、こちらからメンバー登録をお願いします。
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参加いただいた方の声を一部ご紹介します:
「森田さんの作品にはオーラがありました。空気を纏っているというのか。強く優しい感じがするのは、きっと森田さんご自身がそういう方なのだろうな、と作品からも、お話をする中でも、感じました。」
ーーー仙谷朋子さま(美術家)
「実験的な手法で作品を作り上げていかれるというのがとても共感出来ました。小さな作品を積層したり集合させることで生まれる、繊細なのに大胆で小さいのに迫力がある作品に感動いたしました。」
ーーー坂本憲明さま(ジュエリーデザイナー)
「作家さんご本人に、プライベートに近いような会話で語っていただけたことに御礼申し上げます。」
ーーー渡辺敬子さま(編集者)
主催:FRAGILE BOOKS