《 2023年8月19日 》
ふだんはアポイントメント制のFRAGILE BOOKSのアトリエを開放し、美術家で映画監督の、藤井光さんを迎えてオープンデイを開催しました。2023年8月19日、厳しい日差しが照りつける中、庭の敷石に揺れる木陰に涼を感じながら、参加者の皆さんをご案内しました。
駆けつけてくれたのは、デザイナーの山口信博さん、山口美登利さん、アートディレクターの新保慶太さん、新保美沙子さん、ひとり出版社コトニ社の後藤亨真さんをはじめ、アーティスト、アートコレクターなど、職業も年齢もさまざま。ユーモアを交えて言葉をていねいに紡ぎだす藤井さんによる「ここだけの話」に、それぞれ身を乗り出して聞き入る、濃厚なひとときになりました。
これまでの藤井さんの映像インスタレーション作品は、わたしたちのような小さな本のギャラリーでは扱い切れないスケールのものばかりでしたが、今回特集したのは持ち運べるアートとして生まれた153点のマルチプル作品。FRAGILE BOOKSでは「ベニヤブック」と名付けさせてもらったこの作品群は、元々、2022年に東京都現代美術館で発表された日本の戦争絵画をめぐるインスタレーション作品「The Japanese War Art 1946」を解体して作られたものでした。
この「The Japanese War Art 1946」が誕生した背景には、藤井さん自身がコロナ渦で出会った難民の若者たちの存在が木霊していたそうです。その誕生秘話をかいつまんでご紹介します。こんなことがあったそうです。
幼少期に親とともに海を渡ってきた難民たちがひっそり生活している。ただし、働き盛りの年齢になっても働くことは許されず、日本語をカンペキに話せるのに自由に出かけることもできず、関東のある地域に隔離されて希望を見いだせない日々を悶々と過ごしている。そんな彼等を前にして「芸術には何もできない」と無力さを感じたそうです。
そこで、藤井さんは彼らとともにアートをつくるしくみを考えた。共に汗を流し、話し合いながら何トンにもなる美術品輸送箱の廃材から作品をつくりだすことにした。そうして生まれたのがインスタレーション作品「The Japanese War Art 1946」であり、その後の「ベニヤブック」だったのです。
封印された戦争画家たちの価値を問いかけ、希望を奪われた難民の若者たちと作品を共同制作する。「ベニヤブック」として結晶化された作品には、”存在しない”ものたちのたしかな体温が内包されています。
解体した作品を組み立て直した153個の木箱には、それぞれ2冊のドキュメントブックと作品タグ、そして1日8時間の撮影を1ヶ月以上続けた末の結晶である映像データが収まっています。購入した方は、いつでも自由に映像を上映できる上映権が与えられている、というしくみ。この試みは「作品が美術館の収蔵庫に封印されるよりも、一人でも多くの人に届けたい」という映像アーティストの本懐なのでしょう。
オープンデイでは、アート作品や過去の記憶を「読む」という経験をしてもらいたい、と語っていた藤井さんの眼には、すでに次の作品が浮かんでいるようでした。
フラジャイル博覧会
ベニヤブック/Veneer Book
https://www.fragile-books.com/collections/veneer-book-hikaru-fujii
FRAGILE BOOKSは、取り扱いに注意のいる作品を、直に触れることができるオープンデイを不定期で開催します。DMハガキ、オンライストア、Instagramでご案内しますので、ご興味のある方は、こちらからメンバー登録をお願いします。
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参加いただいた方の声を一部ご紹介します:
「公の場では聞けない裏話を、藤井先生ご自身から直接聞くことが出来て、本当に良かったです。」
ーーー山下祥子さま
「藤井さんの大変面白いお話に加え、建物やお部屋の設え、お出ししてくださった器や飲み物など、隅々までお心遣いが伺える気持ちの良い場でした。」
ーーー井手尾 雪さま(アーティスト)
主催:FRAGILE BOOKS