土木工要録
Bibliographic Details
- Title
- 土木工要録
- Author
- 内務省土木局編
- Year
- 1881(明治14年)
- Size
- h258 × w185 x d22 mm
- Weight
- 380g
- Language
- 日本語
- Binding
- 経本仕立て・片面
- Printing
- 木版スミ一色刷
- Materials
- 紙
- Condition
- Fair
各図とも見開き使いで1図のみから6図重ねまで。棚牛之図、菱牛之図、尺木牛之図、弁慶枠之図、籠出之図、紀州流入樋之図、関東流扖樋之図、伏越籠扖之図、刎橋之図、竹荒之図、切所築立之図、石眼鏡橋之図 他 ※下記の通り土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブスと異なる点があります。 枠出之図=貼込1図欠、腹籠之図=貼込2点有(アーカイブは貼込なし)、 地杭打タル図=3図欠
150年前の名もなき人が
水害から守るために考案した
3次元の本。
いたって簡素な表紙。しかもテーマが「土木」。外側も内側もこの上なく地味。市場でなぜまた手にとる気になったのか、いまでは全く思い出せないのですが、しかしとりあえず開いてみて、驚いたのがこの本との最初の出会いでした。
何にそんなに驚いたかと云えば、その解説図のつくりです。要は完成した段階では隠れてしまう構造をどのようにすれば伝えられるかという一点で、果敢に攻めた本とでもいいましょうか、一番上に貼り付けた完成図をめくると一段階前の状態が図示され、その図をめくればさらにそのひとつ前の段階が現れるという、透視図のようなつくりとなっています。現在であればパソコンのソフトでレイヤーを分けて作図するところを、約150年前の人は、紙と筆という最低限(当時の最大限)の道具で工夫を凝らし、なんとか完成させたのです。
「江戸時代の幕府普請方の技術にお雇い外国人から学んだ洋式工法を加味した,土木施工便覧である。工事の基礎から仕上がりまで幾枚もの絵図を積み上げ,透視図風に貼り込んだ手作りの労作として評価が高い。」(室蘭工業大学付属図書館サイトより)
『土木工要録』は治水に関連した土木技術書です。天・地・人の本文に全ページ解説図で構成される附録2巻がついた全5巻からなるもので、ここでご紹介するのは附録のうちの1冊です。
3次元の事物をどのように2次元のツールで伝えるか。ITの飛躍的な発展以前、視覚文化のテーマには、長らくこの課題がついて回っていたものです。
江戸時代の「茶室起こし絵」という立体絵本があります。「起こし絵」はひろげて、また折りたためるという点は驚異的ではあるものの、あくまで模型。2次元の平面内に留まりながら、正しい情報の伝達を志したこの『土木工要録』 の方が、なんだか潔いようにも思えてきます。
21世紀の今日でさえ、河川のもたらす災害をみずにすむ年はありません。治水は日本の宿命ともいうべき永遠の課題です。この1冊におさめられたギミックは、水によって奪われる人・モノ・コトと真摯に向き合った、いまは名もなき人たちの叡智の結晶でもあるのです。
『土木工要録』は土木学会附属土木図書館による「戦前土木名著100書」にも選ばれています。
※下記の通り土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブスと異なる点があります。
枠出之図=貼込1図欠、腹籠之図=貼込2点有(アーカイブは貼込なし)、 地杭打タル図=3図欠
Text by 佐藤真砂