茶室

Bibliographic Details

Title
茶室ー趣味・空・数寄の場所
Artist
Yasutomo Ota / 太田泰友
Year
2015
Size
h300 × w220 × d40 mm
Weight
0.7kg
Language
Japanese / 日本語, English / 英語, German/ドイツ語
Printing
ハンドオフセット印刷(文章)、シルクスクリーン印刷(箱)、茶葉による描画、
Materials
楮紙、絹糸、カード紙
Edition
23
Condition
new

桐箱入

岡倉天心の『茶の湯』が
折りたたまれた
ティーバッグ。

茶室をテーマにした本作は、大きなティーバッグのかたちをしています。ティーバッグを開くと、左右に二つの和紙の束が現れます。全体のふんわりとした印象は、和紙ならでは。ティーバッグの紐の部分を和綴じの糸から展開させている点でも、日本の感性を感じさせられます。所謂和風の作品は決して多くない作者ですが、こうした細部から滲み出すアイデンティティの背景には、紛れもなく日本という存在があります。

テキストは、岡倉天心『茶の本』(岩波文庫)の第四章「茶室」から抜粋した文章を使用しています。茶室の畳の間取り図を、墨の代わりに茶葉の色で描画したものが右側のページに、その図に合わせて日本語・英語・ドイツ語の3ヶ国語を組み合わせたタイポグラフィーの表現をしたものが左側のページに配置されています。左右の束は対になっているので、左右のページを同時に読み進めていくことが出来ます。

建築と本の間を行き来しながら創作を続ける作者が選んだ「茶室」。茶室の構造は、西洋建築の壮麗さとも寺院建築の重厚さとも真逆の極致を示していると言えます。茶室の建築は「数寄屋建築」と言われますが、「数寄屋」の意味について、岡倉天心が次のような解釈を行っています。1つ目は、空き家と書いて「空家(すきや)」。四畳半などの狭い空間でも、そこにいろいろなものを並べたり詰めたりしてしまえば、余地はなくなる。但し、空っぽにしておけば、そこにはあらゆるものが入る可能性がある。空っぽであればどんなものでも入る。あるいは、その中が自由な空間になる。2つ目は「好き家(すきや)」。好みの部屋であること。茶会であれば、日ごと自分や客人の好みに合わせて、生ける花によっても空間が変わる。機会ごとに変わる好みを取り入れる。3つ目は「数寄屋」。「偶数」対「奇数」の意味で「数寄」を紐解きます。具体的には、「違い棚」を例に挙げ、東洋の茶室建築では、違い棚のような不規則な非均衡で、不安定な景色を取ることで、流動性、すなわち動きが出てくるからだと岡倉天心は言っています。左右対称では、動きが固定されてしまう。それに対して、違い棚は、心の動きを呼び起こすことができる、と。

美術作品としての本の歴史が脈々と受け継がれるドイツで、技術と思考を身につけた作者は、自らの文化背景である日本の建築様式と茶の湯の哲学を掛け合わせ、発酵させました。本作は、ブックアートの未来に、大いなる可能性を感じさせる傑作です。


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