一千一秒物語|文 / 稲垣足穂・本 / 赤井都 〈ラストエディション〉

Bibliographic Details

Title
One Thousand and One Second Stories, Last Edition / 一千一秒物語〈ラストエディション〉
Author
Taruho Inagaki / 稲垣足穂
Artist
Miyako Akai / 赤井都
Publisher
Kototsubo / 言壺
Year
2022
Size
W71×H75×D33mm
Language
Japanese / 日本語
Binding
Scroll book / 巻子本
Printing
Laser print(text), resin plate printing & drypoint(Illustration) / レーザープリント(文字)、樹脂板印刷+ドライポイント(イラスト)
Materials
Leather, Gold leaf, Gampi Paper, LED lights, Coin battery / 革、金箔、雁皮紙、LED電飾、豆電池
Edition
Limited & Numbered edition of 10 copies / 10部限定・シリアルナンバー入り

タルホの宇宙を
一行ずつスクロールする
豆本の金字塔。

FRAGILE BOOKSがたいせつにしているのは、中身のフラジリティと、弱さから生まれる美しい造本。そのどちらも兼ねそなえた本には、なかなか出会うことがありませんが、本書は、みごとにその両方が体現された逸品です。

原書は稲垣足穂の処女作『一千一秒物語』で、フラジャイル界隈では言わずと知れた有名な一冊。自分の全作品は「一千一秒物語」の註であると自ら語ったように、タルホの宇宙的郷愁をコンデンスした代表作で、それまでの文学には存在しなかった「未来派の玉手箱」(松岡正剛の千夜千冊)でした。

1923年に金星堂から出版されて以来、これまでに複数の版元からさまざまな装幀で刊行されてきました。特に、1990年に透土社から刊行された羽良多平吉の装幀バージョンは、書容設計家を名乗る羽良多平吉が敬愛するタルホのために自ら編集とデザインを手がけた細部までフラジャイルで美しい一冊でした。この赤井都バージョンも、その系譜にあり、マッチを擦った火花のような煌めきを見せてくれます。


赤井都の 〈ラストエディション〉には、全68話から成る『一千一秒物語』から厳選し、抜粋した10篇のショートストーリーが収められています。

この『一千一秒物語』はフラジャイルすぎて人に見せるだけで気を遣う。雁皮紙の強度は二枚重ねて増やしたけれど、それでも一瞬の不注意でしわしわになってしまう可能性がある。ネオジムマグネットは小さくても宙を飛ぶ。この本を全く必要としていない人が99人通り過ぎ、1人が興味を示せばいい。それでこそ、これまでどこにもなかった本だ。どのみち私はそんなにたくさん作れそうにない。ーーー赤井都


世界で最も薄い紙ともいわれ、印刷工場の工業的な印刷マシーンでは印刷することは不可能な雁皮紙を、自ら一枚ずつ印刷し、字と図の2枚を紙の目を直交させて貼り合わせています。 小さいけれど、赤井さんが作る豆本は驚くほど読みやすい。その理由は、赤井さんが豆本作家になった所以に直結します。

小さな頃から本を読むことが大好きだった赤井さんは、しぜんと自分で物語を書くようになり、次第に小説を書くようになって、とにかく一人でも多くの人に自分の物語を読んで欲しかったのだそうで。純文学からエンタメまで、たくさんの小説公募に応募しては、予選は通過するものの高い評価は得られず、それでついに一念発起して2002年からは自分で本をつくりはじめてしまった。個人誌をこつこつ制作しては手売りするには、ふつうの本では手にとってもらえない、と造本の試行錯誤も同時に工夫しはじめました。自分で書いた物語にぴったりの本のかたちを探っていく内でたどりついたのが「小さな本」だったという順番なのです。赤井都という豆本作家誕生の瞬間でした。

はじめに、中身ありーーー。赤井さんにとっては、本の中身がもっとも大事で、小さく在ることはその次なのだそう。

本で一番大事なのは、中身。言壺は「読める本」を作ります。
私は小説を書き、建築を学び、製本の世界へ入ったというバックグラウンドを持ちます。本は読むために、パーツを立体的に組み立て、機能美の物として作るという考えです。
 「読める本」ということを、次の4つの側面で考えています。
1)中身が、読ませる。おもしろい。そばに置いておきたい。何度も読みたい。
2)中身と本の造形が、合っている。本を見た時から物語が始まり、手に取りたい、開きたい、読みたいと、本があなたに思わせる。紙の本ならでは。
3)本がちゃんと閉じ開きできる。たとえ豆本であっても、のどまできちんと開き、何度読んでも壊れずに、また元どおりに閉じられる。
4)こうして何度も読むためには、耐久性が必要なので、しなやかな薄さであっても必要な強度を出し、時間で劣化しにくい素材や印刷を用いる。こうすることで、人と本との関係は、時間を経て熟成されていく。
ーーー赤井都

かわいい、小さい、軽い、たったそれだけの理由で、75mmの芸術に至るはずはありません。あるときひとりの読者から『一千一秒物語』を薦められたのがきっかけで、さまざまなバージョンの『一千一秒物語』を図書館などで手に取り、何度も読み返し、その結晶としてこの作品が生まれたのです。

書肆ユリイカ版の『一千一秒物語』は、活版の味わいのある読書に満たされたものを感じた。物語と言葉の不思議さが伝わってくる。しかし、短い物語の、始まりと終わりとが同時に視界に入るのが不満だった。これは豆本にして、ページを繰らなければ次の言葉が見られないようにしたほうがいい。ーーー赤井都


そんな赤井都さんがFRAGILE BOOKSとなら…と、2017年に完売してしまっていた幻の『一千一秒物語』の<ラストエディション>を仕立ててくれました。2017年当時、多めに刷った完成度の高い残り僅かな印刷紙を使い、マグネットで巻物を装着するアイデア、引き出しや革モザイクと金線のデザインは、既刊に習って残しつつ、二巻ずつをランダムに組み合わせたセットになりました。1巻ずつは全長は約90センチあり、読み応えもあります。そして<ラストエディション>の新しい試みとして、LEDライトが付いています。どうぞ部屋を暗くして、タルホの宇宙をおたのしみください。


<注意点>
・函のデザインは一冊ずつすべて異なります。
・函のデザインはお選びいただけませんのでご了承ください。
・書籍の内容は『一千一秒物語』より抜粋した約10話が2巻に収められています。
・書籍の内容はお選びいただけませんのでご了承ください。

 


©Atsuko Ito(Lasp Inc.)

赤井都 Miyako Akai
自分で書いた物語をそれにふさわしい本の形にしたいという思いから、独学で初めて作ったハードカバー豆本で、2006年ミニチュアブックソサエティ(本拠地アメリカ)の国際的な豆本コンクールで、日本人初のグランプリを受賞。2007年に連続受賞。その後、10年間かけて、通常サイズの本で西洋の伝統的手製本、デコール、書籍の修理と保存をルリユール工房などで学ぶ。2016年、2021年、2022年も受賞。2014, 2017年、Hong Kong Book Art Festival(香港)からの招待で豆本ワークショップ、講演講師。2018年、The Sharjah International Book Fair(アラブ首長国連邦)からの招待で子供向け豆本ワークショップ講師。2019年、豆本に貢献した人として、ミニチュアブックソサエティからのNorman Forgue Award受賞。著書に『豆本づくりのいろは』(河出書房新社)、『そのまま豆本』(河出書房新社)、『楽しい豆本の作りかた』(学研パブリッシング)。2006年より個展、グループ展、ワークショップ講師、豆本がちゃぽん主催など。オリジナルの物語を、その世界観を現す装丁で手作りする、小さなアーティストブックの作り手として、また講師として活動中。

<関連リンク>
・赤井都さんオフィシャルサイト:言壺
・ミニチュアブック協会オフィシャルサイト(英語のみ):Miniature book society

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