Mystery of the Palace Crown / 官冠神秘抄
Bibliographic Details
- Title
- Mystery of the Palace Crown / 官冠神秘抄
- Author
- Ishiwata Yoshizo / 石渡佳藏
- Images
- Manuscript / 肉筆写本
- Year
- c. 1806
- Size
- h240 × w170 × d10mm
- Weight
- 80g
- Pages
- 70page
- Language
- Japanese / 日本語
- Binding
- Japanese-style book binding / 和綴じ
- Materials
- Japanese paper / 和紙
雁皮紙に帽子だけを28種類描いた世界に一冊だけの肉筆本。江戸末期、文化3年 (1806年) 頃の作とされているが、だれが何の目的でこの本をこしらえたのか、詳細はわからない。
この本は、『冠帽図会(かんぼうずえ)』の肉筆写本である。冠帽とはカンムリやボウシなど古来から日本人の「かぶりもの」を指すことば。この図譜には、天皇や皇太子が大儀(即位や朝拝)の際に着用した「冕冠(べんかん)」など、いまから1400年以上前の603年に聖徳太子が定めた「冠位十二階」以降に定着した28種類のハットが描かれている。
1840年に松岡辰方(まつおか・ときたか)が編纂した『冠帽図会』(京都大学貴重書資料デジタルアーカイブで閲覧できます)と本作を比較すると、こちらのほうが絵はおおらかで、解説文も付いている。いわんや江戸時代の武家官位の服装は色や形に関するさまざまな決まり事があり、装束にもアンチョコ本が必要だったことは想像に難くない。その代表的な有職故実家が松岡辰方で、塙保己一に国学を、武家の故実を大成した伊勢貞丈の孫の伊勢貞春や高倉永雅に有職故実を学び、和学講談所で会頭を務めた大立者だった。その著作は『冠帽図会』の他に『位階便図』、『装束織文図絵』、『織文図会』、『女官装束織文図会』などがある。
日本の歴史をふり返れば、5世紀頃には埴輪が帽子を被っていたし、「古事記」や「日本書紀」には、すでに「冠」や「笠」などの語が散見される。仏教が伝来した飛鳥時代、つづく平安時代には朝廷で帽子の着用にかんするルールが確立し、その後紆余曲折があったものの、江戸時代(1687)の大嘗祭には冠全体に刺繍をほどこす形式の「冠」が復活した。
「有職故実」とは朝廷や公家に昔から伝わる礼式・官職・法令・年中行事・軍陣などの先例や根拠をまとめたもの。当時は公家でさえも、本来なんだったか分からなくなり、有職故実家に教えを乞うほどだった。そこで、この「官冠神秘抄」である。表紙に「神秘抄」と書かれているところ、どうも研究者が絵師に依頼したか、はたまた筆達者な研究者が自ら書き写したのではないかと推測される。松岡辰方が『冠帽図会』として流布するより30年以上も前の本ということは、もっと古い時代の底本を複写したものかもしれない。