O N E E V E R Y O N E
Bibliographic Details
- Title
- O N E E V E R Y O N E
- Author
- Ann Hamilton
- Year
- 2017
- Size
- h272×w210×d45mm
- Weight
- 1280g
- Pages
- 900page
- Language
- 英語
- Binding
- 並製
- Printing
- オフセット印刷
- Materials
- 新聞用紙(newsprint)
触れるとピントが合い、
離れるとボケけてしまう
半透明の膜。
アン・ハミルトンの «O N E E V E R Y O N E» は、人間の「タッチ」が親密さとプライバシーを伝える重要な手段であり、わたしたちは手を伸ばして物に触れることで、世界を知ることができる、という考えにもとづいています。
2017年、テキサス州オースティンで一般市民およそ530人がアン・ハミルトンのもとに集結しました。
参加者は無名のオースティン市民。これまでケアを受けたことがある人からケアを提供したことがある医療従事者まで、すべての人が歓迎されました。ハミルトンは、曇ったガラスのような、つや消しのプラスチックゴムの皮膜で撮影セットを組み、被写体となる全員をそのうしろに立たせました。触れると鋭くピントが合い、離れるとたちまち対象がぼやけてしまう半透明の膜の効果で、視覚と触覚をむすびつけ、プロジェクトのテーマである接触と思いやりのあいだに、あらたな関係を浮上させることが狙いでした。
のちに、ハミルトン自身が述懐しているように、この半透明の膜で仕切られた撮影現場は、見えないがために声の伝達だけが頼りになりました。まさに、医療の方法によく似ていたというのです。
こうして撮り下ろされた2万枚を越える市民の肖像は、参加者が少なくとも1回は登場するように分厚い900ページの本になりました。テキストはありません。新聞の用紙に印刷されたので、分厚いのに軽い、まるで少年ジャンプか電話帳のようなアートブックができあがりました。これがオースティン市民の手から手へ回覧され、のちに無料配布されたというのですから、驚くべきブックプロジェクトです。
オハイオ州立大学とのO N E E V E R Y O N E • Ohio
ちなみに、«O N E E V E R Y O N E» はパブリックアートプロジェクトとして、メディカルスクールの廊下にパネル展示されたり、詩人や哲学者や科学者の寄稿文エッセイが新聞発行されたり、写真を無料ダウンロードできるウェブサイトが開設されるなど、書籍以外にもさまざまに展開しました。
プロジェクトの直後に、コロナウイルスが世界に蔓延し、医療現場から市民生活まで、人との接触をこれほどまでに遠ざける社会がやってくるとは、だれも予想しないことだったはずです。奇しくも「接触」をテーマとした『O N E E V E R Y O N E』は、接触を禁じるコロナ時代の、象徴的なアートブックです。
Text by 櫛田理