絵本になる前の絵本 / 荒井良二

Bibliographic Details

Title
Pictures before a picture book / 絵本になる前の絵本
Author
Ryoji Arai / 荒井良二
Director
Osamu Kushida / 櫛田 理
Publisher
BONBOOK / 図書印刷株式会社
Year
2022
Size
w148 × h210 × d14mm
Weight
360g
Pages
148 pages
Language
Japanese + English / 日英対訳
Binding
Hard cover / ハードカバー
Materials
Paper
Edition
First edition of 3000 copies / 初版限定3,000部 ※表紙は初版限定
Condition
New

Layout Design by Ryosuke Saiki 佐伯亮介、Cover Textile Design by Reiko Sudo 須藤玲子、Book Design by Yoshihisa Tanaka 田中義久、Special Thanks to Makiji Kojima 小島麻貴二 (margo), Orie Sakamoto 坂本織衣 (SEE MORE GLASS), Nao Katsumi 勝見奈穂、Sales Cooperation by 無印良品 MUJI BOOKS、Printing and Binding by TOSHO PRINTING CO., LTD. 図書印刷株式会社



だれにもたのまれなかっただけで
ぼくはずっと暗い色の絵を描きたかった。
荒井良二

絵本作家の荒井良二さんが描き下ろした23枚の原画集が誕生しました。どの1枚も絵本が生まれてくる予感で溢れ、荒井さん自身と”会ったことのない誰か”の記憶が混ざり合うような、なつかしい暗さと光で満ちています。巻末には、インタビューを収録しました。選べる3種類の表紙は、初版のみの限定です。(内容は同じです)

<3種類の表紙>

A:バレリーナ / ballerina
B:オバケ / ghost
C:おさげ髪の少女 / a girl with pigtails


絵本作家の荒井良二さんとつくったのは、新作絵本!ならぬ「絵本になる前の絵本」。この本のために描き下ろしてもらった23点の絵を収めた原画集です。全体を貫くひとつの物語はないけれど、それぞれの絵からたくさんのあたらしい物語が生まれそうな気配が感じられる、そんな奥行きのある1冊です。

絵に共通するテーマは、会ったことのない誰かに通じる「懐かしさ」。作品のタイトルには、まるで日記を歌にしたような名前がつけられています。最初のページにある「ゴールドの絵」は、荒井さんが絵を描きはじめるときに最初に塗る下地です。ゴールドのページをめくると、順番に作品が登場し、巻末には荒井さんの特別インタビューを収録。シンプルな構成ですが、このページネーションにたどり着くまでには、試行錯誤がありました。大切にしたかったのは、原画の質感と原画を目にするまでのプロセスです。

下地のゴールドや絵の具の立体感やツヤ感、これをどのように再現できるか。平らな紙に印刷された書籍では到底伝えきれない「実物」の魅力をどのように読者の皆さんへ届けるか。考えた末、荒井さんにも内緒で原画を思い切ってトリミングし、全体像が分からないくらいぐっとディテールに寄ったページを原画ページの前に置いてみることにしました。すると、ゴールドの輝きや紙の質感、絵の具の立体的なディテールがより鮮やかにでてきました。また、そのさらに手前に薄紙をはさみ、そこにローマ字の作品タイトルを配置して、たどたどしい時間をあえて経由することで、やっとのことで1枚の原画へたどりつくような体験を工夫しました。荒井さんは巻末のインタビューでこんなふうに話しています。

ロウソクの灯りの向こう側に見える景色を描いていたように思う。眼の前の机や窓もじーっと見ていると、だんだんその向こうに別の世界が見えてきて、それが消えないうちに急いで描き留めた、という感じ。その景色って、 もしかしたじぶんだけのものではなくて、ほかの誰かのものかもしれないよね。

———『絵本になる前の絵本』荒井良二 巻末インタビューより


荒井さんの言葉を受けて、読者にも、ぼんやりとしたロウソクの向こう側の景色を、ゆっくりじっくり味わって欲しいという思いで、白い本文用紙の間に、モヤモヤとした半透明の紙を挟みながら、見えそうで見えないあやふやな世界の入り口をこしらえました。

この本にはもうひとつ、特記すべき事柄があります。それは、今回描き下ろされた絵の裏テーマが「暗い色の絵」だということです。荒井さんといえば、明るく鮮やかな色づかいの作品が多いため「色の人」と呼ばれることもあるそうですが、そんな荒井さんが冗談交じりに、今回は「暗い良二」で!と。この裏テーマが決まるのには、それほど時間を要しませんでした。

初めての打ち合わせの日、都内某所の喫茶店で編集部はドキドキしながら荒井さんの登場を待っていました。赤色のリュックを背負って、誰よりも軽快に現れた荒井さん。はじめての打ち合わせは「どんな本にしようか」という相談から始まり、これまでに描いた絵をまとめた作品集、物語のある絵本、荒井さんが日課にしている模写を1冊に、などいろいろアイデアを交わしているうちに、編集部が持ち込んだ何冊かの参考本の中から「茂田井武」のはなしになりました。巻末で、こんなふうに話しています。

ぼくは茂田井武という童画家が好きで、以前ギャラリーの企画展でほとんど模写したような絵を 描いたこともある。茂田井武の絵を言葉にするのは難しいけれど、気持ちが入ってるというか、絵から気持ちの重さを感じとることができる。 暗い色味の絵を描いているのに、暗いけど明るい、という感覚になる。それになにより、一枚一枚の絵を描くことを大切にしている、その気持ちが絵から伝わってくるよね。

ぼくも、一枚一枚の絵を描いて、その絵だけで一冊をつくろうと思った。それも、絵本のように始まりと終わりをしっかり決めることをしないで、これまで描いた原画をただ集めるのでもなく。あとで一枚の絵から一冊の絵本がつくれるくらいの、そんな絵を描いてみたいなぁって。そういえば、ずっと暗い色の絵が好きだったし、でも描く機会がなかったから、今回は暗い色を使う「暗い良二」で行こうと思った。結局、それほど暗い色にはならなかったけれど。

———『絵本になる前の絵本』荒井良二 巻末インタビューより


茂田井武が好き、という荒井さん。描いているものや内容は暗くないのに、重たい暗い色を使った、この時代の独特な表現が好きだというお話しから、いつもの絵本は出版社の要望もあって、明るい色で描くことがほとんどという現状も知ることになりました。ならば、今回は「暗い色」でやりましょう、と。普段は明るい環境で本を楽しむ方が多いと思いますが、この本は、是非、ロウソクの灯りをたよりにページをめくってみてください。心の奥にそっと灯るやさしい光を感じてもらえると思います。

表紙の手触りも魅力のこの本は、同シリーズの『ホモファーベル / フィリップ・ワイズベッカー』と同じく、ゆらぎのある網目模様の布張り装丁は、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんの監修で、日本の蚊帳でつかわれる「紗の布」を使い、あずき色の薄紙で裏打ちしたものです。造本設計は、数々のアートブックを手がける田中義久さん。印刷製本は、出版レーベルBONBOOKを発行する図書印刷株式会社。本書はBONBOOKとして9冊目の刊行で、これまで漫画家の高野文子さん、詩人の平出隆さん、FRAGILE BOOKSのロゴもデザインした服部一成さんなど、ジャンルを超えてさまざまな著者を迎えています。

その昔、一日の始まりは日没だったといいます。光は闇の中にこそ生まれるのでしょう。どうかこの本がくたびれた世界の闇に、やさしい光を届けられますように。




《 連動企画 》

フラジャイル博覧会
荒井良二 原画展|絵本になる前の絵本

期間:2022年11月5日〜11月30日
場所:フラジャイル博覧会|オンライン展示室

今月のフラジャイル博覧会は、絵本作家の荒井良二さんによる原画展です。『絵本になる前の絵本』のために描き下ろされた23枚の原画は、どの一枚も絵本が生まれてくる予感で溢れ、荒井さん自身と”会ったことのない誰か”の記憶が混ざり合うような、なつかしい暗さと光に満ちています。今回は特別に荒井さんと選んだアンティーク調のオーダーフレームも販売します。

「一枚一枚の絵を描いて、その絵だけで一冊をつくろうと思った。それも、絵本のように始まりと終わりをしっかり決めることをしないで、これまで描いた原画をただ集めるのでもなく。あとで一枚の絵から一冊の絵本がつくれるくらいの、そんな絵を描いてみたいなぁって。」 (『絵本になる前の絵本』荒井良二 巻末インタビューより)



Profile

 


Photo by Masako Nagano



荒井良二  Ryoji Arai 

絵本作家。1956年山形県生まれ。日本大学藝術学部美術学科を卒業後、絵本を作り始める。1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童文学図書展特別賞を、2005年には日本人として初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞するなど、国内外で数々の絵本賞を受賞。美術館での キューレーションから展覧会、NHK連続テレビ小説「純と愛」のオープニングイラスト、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」の芸術監督など多方面で活動。主な絵本に『はっぴぃさん』、『ねむりひめ』、『きょうはそらにまるいつき』、『きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ』、『こどもたちはまっている』など。日本を代表する絵本作家として知られ、海外でもその活動が注目されている。

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