田中千代の古代裂木綿縞類纂

Bibliographic Details

Title
古代裂木綿縞類纂(こだいぎれ もめんじま るいさん)
Artist
田中千代
Year
1940年頃「類簒」完成か
Size
h405 × w245 × d74mm
Pages
50
Language
Japanese / 日本語
Binding
手製和紙タトウ

帙40.5×24.5×7.4cm / タトウ37.5×21cm / 古裂50mm × 70mm ~70mm × 100mmまたは40mm × 100mm ~ 45mm × 120mm内外 / 手製和紙タトウ50葉 / 和紙タトウ1葉に3点の裂現物貼付 / 裂現物全150点所収 / 日本衣服研究所旧蔵 / 全てのタトウの裏側に「田中千代旧蔵」並びに「日本衣服研究所 無断使用お断り」の朱印、旧蔵機関の除籍証明書付き

東西の美を知り尽くした
田中千代の古代裂コレクション
圧巻の150点

田中千代学園の創設者・田中千代が所有していた木綿縞の古代裂・現物150点のコレクションです。裂は経年変化を感じさせない良好な状態。布を貼った桐箱から裂のサイズに合わせて窓をあけた和紙製のタトウまで当コレクションのために誂えられた手製品。

古裂にご興味をお持ちの方なら、木綿縞をあつめたものといえば「縞帖」を思い浮かべるのではないかと思います。農閑期になると日常的に使う木綿の布を織っていた農村の女性たちが、柄の心覚えにと、ちいさな布の切れ端をひとつひとつ丹念に手製の帖面に貼込んだ「縞帖」は素朴な味わいをその身上としていますが、それと好対照をなすのが「古代裂木綿縞類簒」だといえるのかもしれません。

一般的な「縞帖」と同じく縞や格子柄の布ばかりをあつめたものでありながら、「類簒」にはどこか贅沢品といった趣があります。
縞帖との違いは先ずカラフルなこと。明るい緑や紫、淡いオレンジや多彩なベージュ、やわらかいピンクなどが目をひきます。深い藍色の印象が勝る縞帖は、ややもすれば暗く重たく感じられますが、「類簒」から受ける印象は瀟洒で軽快です。
斜め格子や波形など、縞帖ではあまりお目にかかれない変わった柄が散見されることも特徴のひとつ。それを可能にする複雑な織から、高級品としての格が伝わってくるものも。
大ぶりな柄が多いのも特徴的で、色や柄から受ける印象から、海外の古裂が相当数まじっている可能性があるように思います。

旧蔵者である田中千代は、田中千代学園の理事長で田中千代服装学園(現在の渋谷ファッション&アート専門学校)の創立者。1906年、後に外務大臣となる男爵家に生まれ、幼少期より洋装生活には馴染があったようです。1928年から30年には結婚相手の経済地理学者とともにロンドン、パリ、ケルン、ニューヨークなど欧米各地に赴き、バウハウスの流れをくむ教授に師事するなど服飾デザインを勉強して帰国。早くから民族衣装にも高い関心をもっていた田中千代は、帰国後も外務省や商工省のもとめでインドネシアや東アフリカ、南米へと視察に出かけています(1938・1940年)。1940年に発足した「日本衣服研究所」も1940年、大阪大学理学部繊維科学研究所の付属機関でした。

蔵書印から考えて、当品がいまのような体裁を整えたのは1940年以降のこと。とすれば、1938~1940年の視察で蒐集した古代裂集とみることもできますが、学究肌の田中であれば、その場合もっと限定的な表題つけたのではないかと考え直しました。

奇しくも女性ファッションの大転換期に欧米の最先端モードを学んだ田中千代は、民族衣装に関する深い造詣をもちあわせたとても稀有な女性でした。おそらくは日本と海外で彼女が選びとってきた150点の縞や格子柄の古代裂には、田中千代だからこそもち得た選択基準があるはずです。
ただまっすぐに、モノとしてみているだけでも充分美しく楽しいコレクションですが、ひとつひとつの断片にまだまだ隠されているはずの ”選ばれた理由” を解き明かす楽しみは、これからの所有者に残されています。

Text by 佐藤真砂

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