TOM THUMB / 親指トム

Bibliographic Details

Title
TOM THUMB / 親指トム
Translator
Takeo Fujitsuka / 藤塚武雄
Publisher
Yamaguchi Shoten / 山口書店
Year
1960
Size
h181 × w127mm
Weight
90g
Pages
94 pages
Language
English & Japanese / 日英
Binding
Softbank / ソフトカバー
Condition
good
ISBN
9784003362433

むかしむかし、
いのりから生まれた
親指ほどのちいさな子がいた。

本をひらくと最初の扉ページの右上にちいさな福耳がある。さらに2ページと3ページと5ページにも福耳がみつかった。2ページと3ページの見開きは、製本時にできた福耳によってページがつながってしまった跡が、片ページに残されている。おそらく、読むときに破られたのであろう。残された福耳の姿はまるで小さな体で生まれた親指トムがページの端からひょっこり現れているかのようだ。

本書は、イギリスで17世紀からいまでも親しまれている童話『親指トム』の日英対訳となっている。昭和16年創業の山口書店(京都)が高校生向けに企画した英語教材「ENGLISH READINGS LIBRARY」シリーズの一冊として、1960年に発行された。英文の対向ページに日本語が対訳されていて、海外文学を通じてたのしく英語を学ぶ工夫がされている。同シリーズには、他にもオスカー・ワイルドの名作『幸福な王子(The Happy Prince)』などがある。

さて、ものがたりの内容は、親指ほどの小さな男の子の冒険譚である。長いあいだ子宝を望んでいた農夫とその妻が、魔法の力によって小さな男の子を授かるというあらすじだ。トムと名付けられた男の子は、たぐいまれな知恵と勇気をもち、ときに妖精たちの助けをかりながら、さまざまな困難を乗り越えていく。冒険の果てにトムはアーサー王の宮廷にたどり着き、みんなから愛され、したわれる存在になった、というおはなし。

この物語にはいくつもの派生形があるが、もっとも古いとされているのは1621年に刊行されたリチャード・ジョンソン(Richard Johnson)の『小人の親指トム〜その背丈の低さの為にアーサー王のドゥウォーフと綽名された〜の物語(The History of Tom Thamb, the Little, for his small stature summed. King Arthur's Dwarfe)』とされている。表紙には、親指トムが鳥に連れ去られる場面が木版画で描かれている。このリチャード・ジョンソンは庶民向けのチャップ・ブックを数多く手がけた。本がまだ贅沢品だった当時、彼のような大衆作家によって、一般庶民は物語をたのしむことができた。『小人の親指トム』の前にも、「親指トム(Tom Thumb)」という名前は既に存在しており、1579年に出版されたウィリアム・フォーク(William Fulke)の『Heskins Parleament Repealed』では、「They feighed him to be a little child like Tom Thumb.」という記述がある。

「親指トム」のおはなしは、日本の昔話「一寸法師」やアンデルセンの「親指姫」ともよく似ている。いずれも極端に体が小さく生まれた子どもが、逆境に負けず自らの知恵と勇気、そして神仏や妖精などの目に見えない力の助けを得て、最後には成功を手にする物語である。このような昔話の形式を「異常誕生譚 (いじょうたんじょうたん)」という。異常な姿で生まれた子どもや、異常な生まれ方をした子どもにまつわる物語の総称であり、また、民俗学では神話や伝説、昔話などに登場する背丈の低い神や人物を「小さ子」と呼ぶ。人々の祈りから生まれた「小さ子」たちが、国や文化を越えて多くの人に愛されつづけているのは不思議だ。

トムは大人が手を焼くほどのイタズラ小僧だった。福耳も立派な異常である。扉を開けてすぐに福耳が顔を出すところなど、トムの悪戯に違いない。

ちなみに、出版社である山口書店の創業者の山口繁太郎は、同郷であったことから版画家の棟方志功と交流が厚く、当時繁太郎が棟方の滞在用に旧社屋の隣に建てたのが現在の山口書店の建物となっている。

«目次»
TOM THUMB
THE MAN IN THE BAG
THE TWO BROTHERS

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